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<地方の取り組み>新しいしごとを造る

JAREC現地レポート No.1 熊本県宇城市(H30.10)
“個人の思いを地域づくりに” 地域の地方創生事業(宇城市)


地方創生の前提は「地方自ら考えて、行動し、変革していくこと」。今回、熊本県中部に位置する宇城市松合地区において、地域が主体となり、地域の今後の将来計画の立案等を行った取組について、宇城市 企画部 まちづくり観光課 まちづくり推進係 主事 寺田宜正氏にお話を伺いました。
取材協力頂いた寺田 宜正氏
取材協力頂いた寺田 宜正氏
宇城市役所
宇城市役所
事業の背景

人口6万人を抱える宇城市も、日本各地の自治体と同様に、少子高齢化と人口減少問題に直面しております。平成28年1月に策定された「宇城市まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、「2060年には今の地域社会は決して維持できない状況に陥る。そこで『できる・できない』ではなく、将来を見据えた上で、『しなければならない』ことをしていく、『地域全体がどれだけ本気で取組むことができるか』が問われている」と、この問題に対する危機感とともに、取組推進に向けた決意が示されております。

一方で、宇城市が自治体としてできることにも限界があることや宇城市内の地域ごとに事情も異なることもあり、「地域自ら考えて、行動し、それを宇城市が支援する仕掛けづくり」の第一歩として、モデル地区の住民自らが地区として目指すべき将来像とその実現のためにできることを話し合う「地域の地方創生事業」を実施することとなりました。

図表1 松合地区の土蔵白壁群
図表1 松合地区の土蔵白壁群
出典:宇城市観光情報サイト
https://www.city.uki.kumamoto.jp/kankou/q/aview/118/108.html
モデル地区となった松合地区とは?

松合地区は古くからの港町で、天草など近隣の特産品がこの地に集められ、交易港として栄え、その時代の名残として、土蔵白壁の街並みが今でも大切に保存されています。また、25年以上前から続く朝市には、県内外から多くの方が来場されております。さらに、松合地区では、同地区に暮らす住民同士、まるで家族・親族に向けるまなざしで、まちづきあいを深めてきた地区でもあります。

しかしながら、現在1,700名ほどの人口が、2060年には500名弱まで減少すると予測されており、今後の地域活動をどのように維持し、またどのように形を変えていくかの検討の必要性に迫られている状況の中、今回、本事業に申請し、モデル地区として選定されました。
図表2 ワークショップ等の開催概要
図表2 ワークショップ等の開催概要
出典:「暮らし方手帖(上巻)」P18等に基づき、JARECにて作成
開催概要と3つの特長

平成29年8月から平成30年3月までの間、図表1のとおり、ワークショップ等を含めた会合が計6回、また番外編となるカフェ&バーが計2回それぞれ開催されました。

特に、宇城市では、「地域自ら考えて、行動し、変革していく」ためには、住民が“自分ごと”として本気で話し合える場と内容が重要であり、そのための取組を進めました。特に特長的な部分について3つほどご紹介いたします。
図表3 地域づくりの記録誌
図表3 地域づくりの記録誌
出典:宇城市 地域づくりの記録誌 第1号より抜粋
https://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/34/12603.html
特長① 住民が参加しやすい環境づくり

「行政がやるイベントは、ハードルが高く参加しづらい」といった印象がもたれがちですが、そのハードルを下げるために、住民が親しみやすいようなイベントの名称、配付物の作成(内容や文字、言い回し、レイアウト等)に取り組みました。さらに、途中の会合からでも参加したくなるように、毎回の検討結果を取りまとめた「地域づくりの記録誌」(全6回)の製作と配付を行いました。
図表4 暮らしの価値の整理イメージ
図表4 暮らしの価値の整理イメージ
出典:宇城市 地域づくりの記録誌 第4号より抜粋
https://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/34/12603.html
特長② 「個人」の思いを「地域づくり」に

地域を構成しているのはそこに暮らす個人です。そこで、第1回のワークショップでは、参加された個人に焦点をあてて、各個人の人生・暮らしを振り返るとともに、何を価値(大事なもの)として考えてきたのかを整理しました。その結果、「健康・食」、「趣味」、「地域とのつながり」に価値を感じている方が多いことが分かり、それらを地域の将来像検討の参考にすることとしました。
図表5 ギャップアプローチとポジティブアプローチ
図表5 ギャップアプローチとポジティブアプローチ
出典:宇城市 地域づくりの記録誌 第3号より抜粋
https://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/34/12603.html
特長③ ポジティブアプローチ

一般的に、問題点の改善策を検討する手法として「ギャップアプローチ」と「ポジティブアプローチ」があります。本事業では、「地域自ら考え、行動する」ために、外から資源を投入するのではなく、地域の中にある資源(強みや価値)を見つけて、それを適用していく「ポジティブアプローチ」の視点で検討を行いました。
図表6 取りまとめ結果の概要
図表6 取りまとめ結果の概要
出典:左:「暮らし方手帖(上巻)」P19~35に基づき、JARECにて作成 右:暮らし方手帖(上・下巻)の写真
検討結果とその後の動き

全6回のワークショップ等を経て、平成30年3月に、地域のありたい姿として4つの方向性と具体的な12の活動が取りまとめられました。

また、これらの計画の概要に加えて、これまでの検討を通じて整理された松合地区の強みを「暮らし方手帖(上・下巻)」というB6版の冊子として取りまとめ、松合地区の全世帯に配付いたしました。

実際にワークショップ等に参加された方からは、検討内容に加えて、異なる世代間での理解・交流につながったことがよかったとの意見があがりました。

なお、本事業そのものは、平成29年度末で一旦終了となりましたが、現在、地域内の活動組織である「白壁活用協議会」では「古民家カフェ」を、「まっちゃ活かそう会」においては「朝市のあらたな展開等」について、それぞれ具体的な検討が進められております。

今後、宇城市では、松合地区での活動成果が創出された後、他地域への横展開を図る予定としております。

【JAREC所感】

寺田氏への取材を通じて、「地域自らが考えて、行動する」、そして「意味のある活動につなげる」という強い目的意識に基づき、宇城市が本事業を実施されてきたことを感じました。

宇城市は、もともと各地域の自主的な活動が盛んな土地柄で、またそれらの活動をより一層支援するための「まちのむらづくり応援団補助金」制度が平成26年度から開始されておりました。本事業は、そのような背景のもと、まさに宇城市自身の強みを活かした「ポジティブアクション」による活動だったのではないでしょうか。

また、現在のところ、他地区への横展開は進められておりませんが、今年度より、「まちのむらづくり応援団補助金」において、本事業で進められたような「地区・集落の将来を検討する活動」も補助対象として拡充されております。ある事業において一定の効果等が見受けられたものを、別の事業・制度に反映していくことも、行政として重要な取組みではないでしょうか。

取材協力:宇城市 企画部 まちづくり観光課 まちづくり推進係 主事 寺田宜正氏

URL(宇城市 地域の地方創生事業)
https://www.city.uki.kumamoto.jp/q/aview/34/12603.html
E-MAIL machizukurikankoka@city.uki.kumamoto.jp
取材・文責:栗原 純一
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